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商用EA業界の実態

商用EA(Expert Advisor)の販売は、MQL5 Market、GogoJungle、MyfxBook AutoTrade、FX-ON、Signal Start といったプラットフォーム上で成立する一つの業界です。 販売価格 30〜500 ドルの short-lived product が主流で、数か月から数年で入れ替わります。 ランキングは Profit Factor、総取引数、期間の 3 軸で決まりますが、短期の Profit Factor は戦略の質よりも selection bias を反映します。 販売業者の収益は、本体販売、IB キックバック、有料アップデートの三重構造です。 このページは、商用EAの購入検討、他人のEAのパフォーマンス評価、ランキングの読み方、そして自分でEAを売る場合の期待値を判断するための枠組みとして読んでください。

プラットフォーム マップ

MQL5 Market(2010 年〜)

  • 運営:MetaQuotes Software(MT5 開発元)
  • 規模:世界最大の EA / インジケータマーケット、10,000 商品以上
  • 価格帯:10 〜 30,000 ドル(平均 100 ドル前後)
  • 課金:買い切り、月額レンタル、無料試用
  • 手数料:販売価格の 20%(MetaQuotes 側)
  • 審査:MT5 で動作すること以外の内容審査なし
  • 強み:グローバル販売、MT5 統合、多言語対応
  • 弱み:レビューが操作されがち、返品制度が弱い

GogoJungle(2012 年〜、国内)

  • 運営:ゴゴジャン株式会社
  • 規模:国内最大の EA 販売プラットフォーム、5,000 商品以上
  • 価格帯:3,000 〜 50,000 円(平均 15,000 円)
  • 課金:買い切り、月額サブスク併用
  • 手数料:販売価格の 30〜40%
  • 審査:バックテスト結果とマニュアル整備の形式審査
  • 強み:国内 MT4 業者との連携、日本語サポート、返金制度あり
  • 弱み:バックテスト結果と live の乖離が大きい、返金の実効性は物議

MyfxBook AutoTrade(2010 年〜)

  • 運営:MyfxBook
  • 規模:signal provider ベース、EA 販売とコピー signal のハイブリッド
  • 価格帯:月額 10〜100 ドルの signal 購読
  • 手数料:販売価格の 30%
  • 審査:MyfxBook 側で口座を verified 状態にする必要がある(実口座での成績が第三者検証済)
  • 強み:第三者検証、生存バイアスの縮小
  • 弱み:verified でも過去の破綻業者を隠す傾向がある

FX-ON(2007 年〜、現 GogoJungle 内)

  • 運営:元 fx-on.com、2016 年に GogoJungle に統合
  • 経緯:国内 EA 販売プラットフォーム最古参の一つ
  • 現状:GogoJungle 内のブランドとして継続

Signal Start(2009 年〜)

  • 運営:Signal Start
  • 規模:signal ベース、5,000 以上の signal provider
  • 価格帯:月額 5〜200 ドル
  • 強み:MT4/MT5 対応、signal 選定 UI が優秀
  • 弱み:短期 provider の入れ替わりが激しい

その他

  • eToro CopyTrader:SNS 型(ミラー / コピートレード)
  • ZuluTrade:signal aggregator(同上)
  • 国内シグナル配信サービス:シストレ24 / みんなのシストレ / トライオート(同上)

ランキングの読み方

MQL5 Market や GogoJungle のランキングは、主に以下の指標で構成されます。

主要ランキング指標

指標定義落とし穴
Profit Factor総利益 / 総損失グリッド / マーチンで一時的に無限大にできる
Return期間累積収益率期間が短いほど宣伝価値のある短期数値を選ぶ
Drawdown最大 drawdown生存者バイアス除外が必須
Recovery FactorReturn / Drawdown短期の高数値が過大評価されやすい
Sharpe Ratio年率超過収益 / 標準偏差一部プラットフォームは月次計算
Trades総取引数統計的信頼性(100 未満は評価不能)

Profit Factor のカラクリ

Profit Factor は総利益を総損失で割った値で、3.0 以上が「優秀」とされます。

グリッド / マーチンでの操作は次のように起きます。

  • グリッド EA は、勝率 95% × 小利益 5 pips × 大損失 500 pips のプロファイルを持つ
  • 破綻せず動いた期間だけを切り出せば、Profit Factor 5.0 も普通に出る
  • ただし 1 回の大破綻で Profit Factor は 0.3 に転落する
  • つまり短期の Profit Factor が高いことは、破綻していない期間だという意味しか持たない

Cherry-picking も横行します。

  • backtest を 100 パラメータで実行し、最も Profit Factor が高い設定だけを公開する
  • 実装は簡単で、統計テスト(multiple comparison correction)を通せば無効化されるが、審査プロセスに存在しない

期間バイアス

  • 3 か月の成績:統計的にほぼ無意味(最低 100〜300 トレードは必要)
  • 6 か月:戦略の初期性能の目安、まだ regime bias がある
  • 1 年:一通りのマーケットレジームを含む
  • 3 年:統計的にある程度信頼できる
  • 5 年以上:生存者バイアス除外の目安

販売開始時点で数か月の実績しかない EA が圧倒的に多く、3〜5 年の継続実績を持つ EA は 5% 未満です。

生存者バイアス(Survivor Bias)

  • 販売終了した EA は表示されない
  • 破綻した EA は非表示になる
  • ランキングの「上位」は「現時点で生存している中で」の上位でしかない
  • 過去 10 年で 10,000 EA が販売され、生存 500、うちランキング上位 100 という状態になる

推定生存率は次のとおりです。

  • 販売開始 6 か月:90%
  • 1 年:70%
  • 3 年:30%
  • 5 年:10%
  • 10 年:3% 未満

Profit Factor 分布(実データ調査、参考)

MQL5 Market や GogoJungle の公開ランキングから推定される Profit Factor 分布です(2020〜2024 の複数調査を参考、正確な数値は要検証)。

商用 EA の Profit Factor 分布のイメージ。大半は PF=1 付近に集中し、PF が高い右裾はごく一部。

架空データによるイメージ図(実際の販売データではありません)。商用 EA 母集団の Profit Factor は 1 付近に集中し、PF が高い右裾はごく一部にとどまる。販売ランキングは、この右裾だけを切り出して見せる。

PF 範囲割合特徴
PF < 1.03%過去 6 か月マイナス、販売継続だが売れない
1.0 - 1.525%平凡、live で trend が崩れると死ぬ
1.5 - 2.035%「普通」ゾーン
2.0 - 3.025%「優秀」表示、実は cherry-picking の可能性
3.0 - 5.010%グリッド / マーチン疑い
5.0+2%ほぼ確実にグリッド / マーチン、破綻待ち

Profit Factor 3.0 以上を「優秀」と表示する慣習は誤りです。 統計的には、Profit Factor 3.0 は 6 か月なら偶然でも達成可能な水準です。 1,000 個の EA を並列で走らせれば、50 個は Profit Factor 3.0 を超えます。

販売者の収益モデル

商用EA販売者の収益は 3 層に分かれます。

1. 本体販売

  • MQL5 Market:30〜500 ドル × 手数料 20% 差し引き → 販売者 24〜400 ドル
  • GogoJungle:5,000〜30,000 円 × 手数料 30〜40% 差し引き → 販売者 3,000〜18,000 円
  • 月間販売数:上位商品で月 50〜500 本、平均は 5〜30 本
  • 月次売上推定:平均商品で 3〜30 万円

2. IB(Introducing Broker)キックバック

  • EA が特定 broker での動作を条件とする場合、affiliate 経由の口座開設で kickback が発生する
  • 1 顧客あたり:100〜1,000 ドルの一時払い、または取引 Lot 数連動(0.5〜3 USD/Lot)
  • 販売本数 × 平均 Lot 数 × 継続月数 で kickback は大きくなる
  • 月次 kickback:上位 EA 販売者で 10〜100 万円

3. アップデート・追加サービス

  • 月額サポート:月 1,000〜5,000 円の「アップデート受け取り」権
  • カスタマイズ:追加課金
  • VIP 会員限定 signal:月額 10,000〜50,000 円

総収益プロファイル

  • 上位 5% の販売者:月間 100〜500 万円
  • 中位 20%:月間 10〜50 万円
  • 下位 75%:月間 0〜5 万円
  • Long tail:販売業者の 80% は「副業レベル」以下

生存者バイアス実験の提案

このテーマで検証すべき仮説を挙げます(検証方法論 に沿って追試する対象)。

H1: MQL5 Market の PF > 2 な EA の 1 年後生存率

  • サンプル:現在 Profit Factor が 2 を超える EA 100 個
  • 追跡:1 年後の販売継続 / 停止 / Profit Factor 変化を追う
  • 予想:生存率 50〜70%、Profit Factor 中央値は 2 未満に低下

H2: GogoJungle の「推奨バックテスト月利」と live 月利のギャップ

  • サンプル:公開バックテストがある EA 100 個
  • 対応:公開バックテスト月利と、販売開始後 6 か月の live 月利を比較
  • 予想:live 月利 = バックテスト月利 × 0.2〜0.5(5 倍以上のギャップ)

H3: 販売価格と live パフォーマンスの相関

  • サンプル:全価格帯の EA 500 個
  • 対応:販売価格と、1 年後の live 月利を比較
  • 予想:相関はおよそ 0(価格と質は無関係)

商用EA選定チェックリスト(現実的)

購入検討時の実務的な判断リストです。

  • live track record が 3 年以上ある(MyfxBook verified で確認)
  • 戦略型が開示されている(トレンド / 逆張り / グリッド 等の分類)
  • グリッド / マーチンではない(勝率 90% 超は疑う)
  • 推奨レバレッジが 5 倍以下である(25 倍推奨は Kelly を超える)
  • リスク開示に「強トレンドで含み損拡大」等の下振れ記述がある
  • バックテスト期間が最低 5 年ある(2013 円安 / 2015 SNB / 2020 コロナ / 2022 金利差を含む)
  • フォワードテスト期間が 6 か月以上ある(販売開始後の実データ)
  • 同じ broker と同じ VPS で再現できることが明記されている
  • 返金制度がある(実効性は別途確認)
  • ソースコードまたは詳細ロジック説明がある(ブラックボックスを避ける)

7 個以上チェックできる EA は市場の 1% 未満で、残り 99% は購入非推奨です。

落とし穴

  • 「月利 X パーセント」広告の PR 部分の切り出し:100 個の EA のうち 1 個の好調期間だけを切り出すのは、統計的に自明な操作
  • バックテストの「資金 10 万円 → 1000 万円」:グリッド + 高レバの必然的な結果で、破綻直前の状態を「成功」と称している
  • 販売者コメントの「顧客の声」:生存者バイアスにより、破綻した顧客の声は載らない
  • 有料 signal を無料 EA に転売:signal 提供者が signal をそのまま EA 化して二重課金する事例
  • 販売開始直後のランキング上昇:一時的なランキング操作(販売者本人による自己購入)
  • 返金制度の実効性:GogoJungle は返金があるが条件が厳しく、MQL5 Market は返金がほぼ不可
  • バックテスト「10 年」の実態:実際は 5 年分の M1 データを 10 年にコピーしていた事例がある
  • AI トレーダーの宣伝文句:LSTM / Transformer 系の EA でも実態は overfitting で、live で崩壊する
  • IB kickback の隠蔽:特定 broker を「推奨」と称しつつ、実は IB 契約で 1 Lot あたり数百円を得ていることを開示しない
  • 販売業者本人の live 口座:「販売者本人が自分の EA で稼いでいる」という主張は検証不可能で、MyfxBook verified を要求すべき

業界データ推定(概算、要検証)

  • 世界全体の EA 販売市場規模:年間 200〜500M ドル(推定)
  • 国内 EA 販売市場:年間 20〜50 億円(推定、GogoJungle 中心)
  • MQL5 Market の販売本数:累計 10 万本超(推定、公表なし)
  • 平均 EA 寿命:販売開始から販売終了まで 18 か月(中央値)
  • 上位 1% EA の売上シェア:全体の 30〜50%(long tail 分布)

これらは正確な業界データがないため、上場ブローカーの決算 や FFAJ 統計との整合を後追いで検証する必要があります。

関連トピック(今回のスコープ外)

  • AI 系 EA の実データ検証:GPT / LSTM 統合の商品評価
  • 信頼できる signal provider 選定手法:MyfxBook verified の追加検証
  • 国内 EA 販売の消費者被害訴訟事例:特商法対応、消費者庁の警告例

これらは将来的に、EA のパフォーマンス主張を実データで検証するテーマとして扱います。

参考