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指標検証のメタ結論

移動平均(MA)、RSI、MACD、ボリンジャーバンド(BB)の4系列を、それぞれ単独のケースとして検証してきました。 このページは、それらを横断して「古典的テクニカル指標とは何なのか」という上位の問いに、累計6,063実験の結果から答えるものです。 各指標の詳細な検証は、移動平均RSIMACDボリンジャーバンドの各ケースを参照してください。

このメタ結論は、「単純ルールで edge を探すのはやめる」という判断の統計的根拠になります。 次に進むなら、複数シグナルの複合、レジーム条件付き、事前登録した独立検証、あるいは棄却が明確な仮説を「やらない」と決める選択肢です。

累計成績

指標Grid 実験Extended 実験累計FDR positive 生存
MA1,5150(全4ラウンド)1,5150
MACD1204866060
RSI2881,3321,6200
BB3781,9442,3220
合計2,3013,7626,0630

α=0.05\alpha=0.05N=6,063N=6{,}063 での期待偶然当たり数は303件です。 実測の raw p<0.05p<0.05(positive-Sharpe 側)は目視で50件から80件程度で、偶然の範囲内、むしろそれ以下でした。

すべての指標ルールの比較基準は、USD/JPY 日足の always-long(常に買い持ち)です。 その OOS 年率シャープは +0.388 で、これは21年の円安ドリフトを受動的に捕捉した数字です。

4指標を横断して見えたこと

FDR は全指標で棄却された

どの指標も、期間、パラメータ、モード、ペア、時間軸をどう変えても、FDR 補正 α=5%\alpha=5\% を通過する positive-Sharpe rule は存在しませんでした。 4指標かける数千実験の結論です。 単発の p<0.05p<0.05 は「data snooping の偶然」と統計的に区別できません。

「灰色帯」は RSI と BB でだけ観測される

灰色帯:単なる選抜バイアスと質的に異なる、次の特徴を同時に持つ結果のこと。

  • IS と OOS のシャープが両方とも正(MA と MACD の「IS≈0、OOS のみ正」とは違う)
  • 稀な rare event での発火(露出1%から13%)
  • 複数ペアで raw p<0.10p<0.10 の clustering
  • 対応する rule 家族が理論的に整合する(稀な統計的 outlier からの mean reversion)

灰色帯を示す rule 家族は次の2つです。

  • RSI R1 threshold reversion(RSI < 30 または > 70)
  • BB R1 %B reversion(%B < 0 または > 1)

この2つは数学的にほぼ同義です。 RSI < 30 は「過去 nn 本の上昇と下落のバランスが極端に下」であり、%B < 0 は「過去 nn 本の平均から σ\sigma 単位で極端に下」を意味します。

一方、灰色帯を示さないのは MA(単純ルールでは選抜バイアスの典型)と MACD(MA の派生で、同じ構造)です。 この対比は、MA と MACD が「過去の平均を追う」ため未来の予測情報を持たないのに対し、RSI と BB は「過去の平均からの乖離を追う」ため、稀な outlier からの回帰という金融時系列の弱いアノマリー(Poterba & Summers 1988)を反映している可能性を示唆します。

「モメンタム順張り」側は複数指標で有意に負ける

複数の指標で、順張り側が統計的に有意な負の edge を示しました。

  • MA G9(touch-and-reject 両側):OOS 3.8-3.8p<0.001p<0.001(最悪)
  • RSI R2 threshold breakout short_only:OOS 0.687-0.687p=0.029p=0.029(オーバーソールドで売り追随)
  • RSI R5 slope short_only:OOS 0.703-0.703p=0.019p=0.019
  • BB R2 %B breakout:OOS 0.833-0.833p=0.008p=0.008(バンド外突破で順張り)
  • BB R4 band walk short_only:OOS 0.731-0.731p=0.015p=0.015

共通する教訓は、短期モメンタムに乗る順張りが USD/JPY の21年で有意に破産することです。 とくに「オーバーソールドで買う」の逆側、つまり「オーバーソールドで売る」は破滅的でした。 教科書の「Buy the breakout」型ルールは、少なくとも FX 日足では実データ的に負の期待値を持ちます。 G9 のタッチ後の反転狙い両側がシャープ 3.8-3.8 で最悪であり、これは「動的 S/R」という教科書の神話に対する最も強い反証です。

ML feature 検証で4指標の性格が分岐する

指標Δ OOS R²(baseline+X 対 baseline)Δ Signal Sharpefeature-only OOS R² 対 baseline判定
MA+0.003+0.729悪化(0.218-0.218弱い regularization
MACD+0.010+0.514改善(+0.024+0.024弱い独立情報
RSI0.037-0.0370.019-0.019悪化(0.073-0.073有害
BB0.010-0.010+0.490悪化(0.022-0.022MA と情報重複

ML feature としての序列は次のとおりでした。

  1. MACD:唯一 Δ OOS R² が明確にプラスで、feature-only R² も改善。ヒストグラム(5,13,5 と 5,20,5)が独立情報の主体
  2. MA:中立(Δ R² ほぼ0)で、baseline+MA の Signal Sharpe 改善効果が最大(regularization)
  3. BB:MA と情報重複(上位特徴の66%が close_over_mid、つまり MA distance)。BB 固有情報(%B、Bandwidth)の独立寄与は限定的
  4. RSI:有害(Δ R² 0.037-0.037)。RSI 情報は lagged returns で既に捕捉済み

含意として、複合 ML モデルを組むなら MACD ヒストグラムは feature に加える価値があり、MA は regularization として使えます。 BB は MA を既に入れているなら追加価値がなく、RSI を GBM の feature に単純に加えると害しかありません(ただし rare event の単純 rule としては灰色帯です)。

4指標のシグナルは always-long baseline を超えられない

always-long baseline の OOS シャープ +0.388 に対し、どの指標の ML シグナルも及びませんでした。

  • MA baseline+MA:+0.302(敗北)
  • MACD baseline+MACD:+0.087(敗北)
  • RSI baseline+RSI:0.446-0.446(悪化)
  • BB baseline+BB:+0.062(敗北)
  • bb_only:+0.432 で baseline とほぼ同等(MA distance が drift を捕捉した結果)

GBM のような非線形モデルを組んでも、指標情報は passive drift を超える edge を生みませんでした。

「古典的テクニカル指標とは何か」の再定義

4指標6,063実験を通じて、神話に迎合しない再定義が浮かび上がります。

指標は「予測器」ではありません。 MA、MACD、RSI、BB のいずれも過去の価格の統計的要約であり、翌日リターンや翌週リターンの予測情報を含みません。 教科書が語る「シグナル」は、統計的に検出できるレベルの edge を提供しませんでした。

指標は「稀な rare event」で weak signal を示す可能性があります。 RSI < 30 や %B < 0 の稀な統計的 outlier では mean reversion pattern が観測されますが、FDR を通過せず、single-rule で運用に持ち込む根拠にはなりません。 灰色帯として独立追跡の対象になります。

指標は「モメンタム順張り」として使うと有意に負けます。 バンド外突破で順張り(BB R2)、オーバーソールドで売る(RSI R2 short)、MA タッチで反発を狙う両側(MA G9)は、複数指標で有意な負の edge でした。 教科書自身も「単独では使わない」と警告しており、数値でその警告を裏付けた形です。

指標は互いに情報重複が大きいです。 BB は SMA に σ\sigma を加えたもので、Middle は MA そのものなので、BB feature の主要情報は MA distance です。 MACD は2つの EMA の差で、MA の変化率にあたります。 RSI は上昇と下落のバランスで、MA とは独立の angle を持ちます。 「指標を並べて使えば分散する」は幻想で、多くは同じ情報の別表現でした。

指標は「共通言語」「執行補助」「レジーム記述」として機能します。 参加者が共通で見る水準(200SMA、70/30 RSI、±2σ\pm 2\sigma BB)は自己言及的な反応を作ります。 Trailing stop や部分利確の参照点として実装の一貫性を保てます。 Bandwidth による volatility regime、MACD histogram による momentum regime の状態記述にも使えます。

「なぜ指標を使うのか」への最終回答

用途判定
edge の源として棄却(4指標6,063実験の FDR 補正)
rare event mean reversion signal として(RSI R1、BB R1)灰色帯、独立追跡が必要
ML feature としてMACD が最も独立情報を持つが絶対値は無意味、他は情報重複か有害
記述(Description)有効。チャート整理、教育、事後の振り返り
共通言語(Common vocabulary)有効。参加者との会話、自己言及的な反応の理解
執行補助(Execution aid)有効。Trailing、部分利確、エントリー確認の一貫性
レジーム分類(Regime classification)有効。他戦略の運用切替の条件変数
モメンタム順張り breakout 用途有意に負ける。積極的に禁止

次に潰すべき仮説

焦点を絞った独立検証として、次を候補にします。

灰色帯の focused replication としては、cutler(14) 70/30 long_only を USD/JPY 分足で単独検証する RSI 側、n=10n=10k=2.0k=2.0、%B<0 short_only を分足で単独検証する BB 側、価格と RSI の乖離検出型(Wilder 原典)の3つです。

複合仮説の事前登録としては、RSI < 30 かつ %B < 0 かつ東京仲値時間帯の複合逆張り、MACD 上向きかつ MA 200 上かつ ADX>25 のレジームでの長期、BB Bandwidth 収縮かつ米指標発表なしの squeeze breakout です。

ML の高度化としては、LightGBM や XGBoost に時系列 CV、複数シード、Optuna を組み合わせるもの、MA と MACD と BB の交互作用項、Bandwidth の高低で別モデルを用いる regime-conditional model です。

「やらない」選択肢の追加検証も残ります。 「相場に居るだけ」の baseline を、レジーム条件付きで降ろすタイミングが存在するかは未検証です。 Drawdown control で always-long よりリスク調整後成績を改善できるなら、そして exit 判断だけが edge の源なら、指標は entry ではなく exit に使うべきという結論になります。

6,063実験の意義

この検証が達成したことは次の6点です。

  1. 教科書ルールで edge を主張することは、6,063実験の実データ検証を前にすると根拠がない、という統計的反証
  2. 特定の順張り breakout ルール(MA G9、RSI R2 short、BB R2 breakout)は有意に負ける、という発見。「教科書通りやれば負ける」の数値化
  3. 稀な rare event 逆張り(RSI、BB)には灰色帯がある、という発見。完全には否定できないが FDR を通過せず、要独立検証
  4. 指標間の情報重複の判明。BB は MA distance の再表現、MACD は MA の変化率で、多指標を並べても分散にならない
  5. always-long baseline という高いハードル。21年の円安ドリフトの受動的捕捉 +0.388 を超える ML モデルすら組めなかった
  6. 「なぜ指標を使うのか」に残された答えは、記述、共通言語、執行補助、レジーム分類の4つで、それ以外は棄却

落とし穴

この結論の射程を、以下の限界とあわせて読んでください。

  • 時間軸:日足と週足のみ。分足は未検証(HistData の手動取得が別課題)。
  • 通貨ペア:メジャー4とJPYクロス5の計9ペア。
  • 期間:2005年から2026年の21年。他の相場制度や金融政策局面では挙動が異なる可能性。
  • 指標種類:MA(SMA/EMA/WMA/Hull/KAMA/DEMA/TEMA)、MACD、RSI(Wilder/Cutler)、BB。ATR、Stochastic、Ichimoku、DMI/ADX 単独などは未検証。
  • ML:単純な GBM に1シード、固定ハイパーパラメータ。
  • Divergence pattern、multi-timeframe 複合、時間帯フィルタ(東京仲値、ロンドン、NY)は未検証。分足を取得していないためです。

参考

  • 検証の方法:データ仕様、ベースライン、アウトオブサンプル、コスト控除、判定基準
  • 仮説カタログ:検証対象の仮説一覧とステータス
  • 移動平均RSIMACDボリンジャーバンド:各指標の単独ケース
  • Bailey, D. H. and Lopez de Prado, M., “The Probability of Backtest Overfitting”, 2014
  • Poterba, J. M. and Summers, L. H., “Mean Reversion in Stock Prices”, 1988
  • Fama, E., “Efficient Capital Markets: A Review of Theory and Empirical Work”, 1970
  • Lo, A. W., “The Adaptive Markets Hypothesis”, 2004