指標検証のメタ結論
移動平均(MA)、RSI、MACD、ボリンジャーバンド(BB)の4系列を、それぞれ単独のケースとして検証してきました。 このページは、それらを横断して「古典的テクニカル指標とは何なのか」という上位の問いに、累計6,063実験の結果から答えるものです。 各指標の詳細な検証は、移動平均、RSI、MACD、ボリンジャーバンドの各ケースを参照してください。
このメタ結論は、「単純ルールで edge を探すのはやめる」という判断の統計的根拠になります。 次に進むなら、複数シグナルの複合、レジーム条件付き、事前登録した独立検証、あるいは棄却が明確な仮説を「やらない」と決める選択肢です。
累計成績
| 指標 | Grid 実験 | Extended 実験 | 累計 | FDR positive 生存 |
|---|---|---|---|---|
| MA | 1,515 | 0(全4ラウンド) | 1,515 | 0 |
| MACD | 120 | 486 | 606 | 0 |
| RSI | 288 | 1,332 | 1,620 | 0 |
| BB | 378 | 1,944 | 2,322 | 0 |
| 合計 | 2,301 | 3,762 | 6,063 | 0 |
、 での期待偶然当たり数は303件です。 実測の raw (positive-Sharpe 側)は目視で50件から80件程度で、偶然の範囲内、むしろそれ以下でした。
すべての指標ルールの比較基準は、USD/JPY 日足の always-long(常に買い持ち)です。 その OOS 年率シャープは +0.388 で、これは21年の円安ドリフトを受動的に捕捉した数字です。
4指標を横断して見えたこと
FDR は全指標で棄却された
どの指標も、期間、パラメータ、モード、ペア、時間軸をどう変えても、FDR 補正 を通過する positive-Sharpe rule は存在しませんでした。 4指標かける数千実験の結論です。 単発の は「data snooping の偶然」と統計的に区別できません。
「灰色帯」は RSI と BB でだけ観測される
灰色帯:単なる選抜バイアスと質的に異なる、次の特徴を同時に持つ結果のこと。
- IS と OOS のシャープが両方とも正(MA と MACD の「IS≈0、OOS のみ正」とは違う)
- 稀な rare event での発火(露出1%から13%)
- 複数ペアで raw の clustering
- 対応する rule 家族が理論的に整合する(稀な統計的 outlier からの mean reversion)
灰色帯を示す rule 家族は次の2つです。
- RSI R1 threshold reversion(RSI < 30 または > 70)
- BB R1 %B reversion(%B < 0 または > 1)
この2つは数学的にほぼ同義です。 RSI < 30 は「過去 本の上昇と下落のバランスが極端に下」であり、%B < 0 は「過去 本の平均から 単位で極端に下」を意味します。
一方、灰色帯を示さないのは MA(単純ルールでは選抜バイアスの典型)と MACD(MA の派生で、同じ構造)です。 この対比は、MA と MACD が「過去の平均を追う」ため未来の予測情報を持たないのに対し、RSI と BB は「過去の平均からの乖離を追う」ため、稀な outlier からの回帰という金融時系列の弱いアノマリー(Poterba & Summers 1988)を反映している可能性を示唆します。
「モメンタム順張り」側は複数指標で有意に負ける
複数の指標で、順張り側が統計的に有意な負の edge を示しました。
- MA G9(touch-and-reject 両側):OOS 、(最悪)
- RSI R2 threshold breakout short_only:OOS 、(オーバーソールドで売り追随)
- RSI R5 slope short_only:OOS 、
- BB R2 %B breakout:OOS 、(バンド外突破で順張り)
- BB R4 band walk short_only:OOS 、
共通する教訓は、短期モメンタムに乗る順張りが USD/JPY の21年で有意に破産することです。 とくに「オーバーソールドで買う」の逆側、つまり「オーバーソールドで売る」は破滅的でした。 教科書の「Buy the breakout」型ルールは、少なくとも FX 日足では実データ的に負の期待値を持ちます。 G9 のタッチ後の反転狙い両側がシャープ で最悪であり、これは「動的 S/R」という教科書の神話に対する最も強い反証です。
ML feature 検証で4指標の性格が分岐する
| 指標 | Δ OOS R²(baseline+X 対 baseline) | Δ Signal Sharpe | feature-only OOS R² 対 baseline | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| MA | +0.003 | +0.729 | 悪化() | 弱い regularization |
| MACD | +0.010 | +0.514 | 改善() | 弱い独立情報 |
| RSI | 悪化() | 有害 | ||
| BB | +0.490 | 悪化() | MA と情報重複 |
ML feature としての序列は次のとおりでした。
- MACD:唯一 Δ OOS R² が明確にプラスで、feature-only R² も改善。ヒストグラム(5,13,5 と 5,20,5)が独立情報の主体
- MA:中立(Δ R² ほぼ0)で、baseline+MA の Signal Sharpe 改善効果が最大(regularization)
- BB:MA と情報重複(上位特徴の66%が close_over_mid、つまり MA distance)。BB 固有情報(%B、Bandwidth)の独立寄与は限定的
- RSI:有害(Δ R² )。RSI 情報は lagged returns で既に捕捉済み
含意として、複合 ML モデルを組むなら MACD ヒストグラムは feature に加える価値があり、MA は regularization として使えます。 BB は MA を既に入れているなら追加価値がなく、RSI を GBM の feature に単純に加えると害しかありません(ただし rare event の単純 rule としては灰色帯です)。
4指標のシグナルは always-long baseline を超えられない
always-long baseline の OOS シャープ +0.388 に対し、どの指標の ML シグナルも及びませんでした。
- MA baseline+MA:+0.302(敗北)
- MACD baseline+MACD:+0.087(敗北)
- RSI baseline+RSI:(悪化)
- BB baseline+BB:+0.062(敗北)
- bb_only:+0.432 で baseline とほぼ同等(MA distance が drift を捕捉した結果)
GBM のような非線形モデルを組んでも、指標情報は passive drift を超える edge を生みませんでした。
「古典的テクニカル指標とは何か」の再定義
4指標6,063実験を通じて、神話に迎合しない再定義が浮かび上がります。
指標は「予測器」ではありません。 MA、MACD、RSI、BB のいずれも過去の価格の統計的要約であり、翌日リターンや翌週リターンの予測情報を含みません。 教科書が語る「シグナル」は、統計的に検出できるレベルの edge を提供しませんでした。
指標は「稀な rare event」で weak signal を示す可能性があります。 RSI < 30 や %B < 0 の稀な統計的 outlier では mean reversion pattern が観測されますが、FDR を通過せず、single-rule で運用に持ち込む根拠にはなりません。 灰色帯として独立追跡の対象になります。
指標は「モメンタム順張り」として使うと有意に負けます。 バンド外突破で順張り(BB R2)、オーバーソールドで売る(RSI R2 short)、MA タッチで反発を狙う両側(MA G9)は、複数指標で有意な負の edge でした。 教科書自身も「単独では使わない」と警告しており、数値でその警告を裏付けた形です。
指標は互いに情報重複が大きいです。 BB は SMA に を加えたもので、Middle は MA そのものなので、BB feature の主要情報は MA distance です。 MACD は2つの EMA の差で、MA の変化率にあたります。 RSI は上昇と下落のバランスで、MA とは独立の angle を持ちます。 「指標を並べて使えば分散する」は幻想で、多くは同じ情報の別表現でした。
指標は「共通言語」「執行補助」「レジーム記述」として機能します。 参加者が共通で見る水準(200SMA、70/30 RSI、 BB)は自己言及的な反応を作ります。 Trailing stop や部分利確の参照点として実装の一貫性を保てます。 Bandwidth による volatility regime、MACD histogram による momentum regime の状態記述にも使えます。
「なぜ指標を使うのか」への最終回答
| 用途 | 判定 |
|---|---|
| edge の源として | 棄却(4指標6,063実験の FDR 補正) |
| rare event mean reversion signal として(RSI R1、BB R1) | 灰色帯、独立追跡が必要 |
| ML feature として | MACD が最も独立情報を持つが絶対値は無意味、他は情報重複か有害 |
| 記述(Description) | 有効。チャート整理、教育、事後の振り返り |
| 共通言語(Common vocabulary) | 有効。参加者との会話、自己言及的な反応の理解 |
| 執行補助(Execution aid) | 有効。Trailing、部分利確、エントリー確認の一貫性 |
| レジーム分類(Regime classification) | 有効。他戦略の運用切替の条件変数 |
| モメンタム順張り breakout 用途 | 有意に負ける。積極的に禁止 |
次に潰すべき仮説
焦点を絞った独立検証として、次を候補にします。
灰色帯の focused replication としては、cutler(14) 70/30 long_only を USD/JPY 分足で単独検証する RSI 側、、、%B<0 short_only を分足で単独検証する BB 側、価格と RSI の乖離検出型(Wilder 原典)の3つです。
複合仮説の事前登録としては、RSI < 30 かつ %B < 0 かつ東京仲値時間帯の複合逆張り、MACD 上向きかつ MA 200 上かつ ADX>25 のレジームでの長期、BB Bandwidth 収縮かつ米指標発表なしの squeeze breakout です。
ML の高度化としては、LightGBM や XGBoost に時系列 CV、複数シード、Optuna を組み合わせるもの、MA と MACD と BB の交互作用項、Bandwidth の高低で別モデルを用いる regime-conditional model です。
「やらない」選択肢の追加検証も残ります。 「相場に居るだけ」の baseline を、レジーム条件付きで降ろすタイミングが存在するかは未検証です。 Drawdown control で always-long よりリスク調整後成績を改善できるなら、そして exit 判断だけが edge の源なら、指標は entry ではなく exit に使うべきという結論になります。
6,063実験の意義
この検証が達成したことは次の6点です。
- 教科書ルールで edge を主張することは、6,063実験の実データ検証を前にすると根拠がない、という統計的反証
- 特定の順張り breakout ルール(MA G9、RSI R2 short、BB R2 breakout)は有意に負ける、という発見。「教科書通りやれば負ける」の数値化
- 稀な rare event 逆張り(RSI、BB)には灰色帯がある、という発見。完全には否定できないが FDR を通過せず、要独立検証
- 指標間の情報重複の判明。BB は MA distance の再表現、MACD は MA の変化率で、多指標を並べても分散にならない
- always-long baseline という高いハードル。21年の円安ドリフトの受動的捕捉 +0.388 を超える ML モデルすら組めなかった
- 「なぜ指標を使うのか」に残された答えは、記述、共通言語、執行補助、レジーム分類の4つで、それ以外は棄却
落とし穴
この結論の射程を、以下の限界とあわせて読んでください。
- 時間軸:日足と週足のみ。分足は未検証(HistData の手動取得が別課題)。
- 通貨ペア:メジャー4とJPYクロス5の計9ペア。
- 期間:2005年から2026年の21年。他の相場制度や金融政策局面では挙動が異なる可能性。
- 指標種類:MA(SMA/EMA/WMA/Hull/KAMA/DEMA/TEMA)、MACD、RSI(Wilder/Cutler)、BB。ATR、Stochastic、Ichimoku、DMI/ADX 単独などは未検証。
- ML:単純な GBM に1シード、固定ハイパーパラメータ。
- Divergence pattern、multi-timeframe 複合、時間帯フィルタ(東京仲値、ロンドン、NY)は未検証。分足を取得していないためです。
参考
- 検証の方法:データ仕様、ベースライン、アウトオブサンプル、コスト控除、判定基準
- 仮説カタログ:検証対象の仮説一覧とステータス
- 移動平均、RSI、MACD、ボリンジャーバンド:各指標の単独ケース
- Bailey, D. H. and Lopez de Prado, M., “The Probability of Backtest Overfitting”, 2014
- Poterba, J. M. and Summers, L. H., “Mean Reversion in Stock Prices”, 1988
- Fama, E., “Efficient Capital Markets: A Review of Theory and Empirical Work”, 1970
- Lo, A. W., “The Adaptive Markets Hypothesis”, 2004